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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)2442号 判決

本店所在地

東京都豊島区西池袋一丁目三七番一二号

昭利観光株式会社

右代表者代表取締役

高橋利行

本籍

東京都中野区中央一丁目二五番地

住居

東京都練馬区豊玉上二丁目一四番地

桜台ファミリーマンション二〇五

会社役員

高橋利行

昭和一四年一月一一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官久保裕出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人昭利観光株式会社を罰金一三〇〇万円に、被告人高橋利行を懲役八月にそれぞれ処する。

被告人高橋利行に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人昭利観光株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都豊島区西池袋一丁目三七番一二号に本店を置き、飲食店の経営等を目的とする資本金一二〇〇万円の株式会社であり、被告人高橋利行は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人高橋は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年八月一日から昭和五三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三六四三万九二六七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和五三年九月二九日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九三一七万二四八三円でこれに対する法人税額が三六三七万四六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一五七〇号の二)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五三六八万一四〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一七三〇万六八〇〇円を免れ

第二  昭和五三年八月一日から昭和五四年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億三八七八万三五八四円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和五四年九月二六日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八五九三万六六九八円でこれに対する法人税額が三三四八万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の三)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五四六二万七五〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二一一三万八八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人高橋の当公判廷における供述

一  被告人高橋の検察官に対する供述調書三通

一  清水茂(三通)及び数元泰之の検察官に対する各供述調書

一  検察官、被告会社、被告人高橋及び被告人らの弁護人共同作成の合意書面

一  豊島税務署長作成の証明書

一  東京法務局板橋出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税修正申告書一袋(昭和五六年押第一五七〇号の一)、法人税確定申告書二袋(同号の二、三)及び無標題ノート一袋(同号の四)

(法令の適用)

被告人高橋の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があつたときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人高橋の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一三〇〇円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、東京や礼幌などで大型パブ店やフランス料理店など合計七店舗を経営し、この種業態では、わが国で草分け的存在ともいうべき被告会社において、代表取締役の被告人高橋が二年度にわたり合計三八〇〇万円余りの法人税を免れたという事案である。ところで、被告会社は昭和四五年に設立されて以来、本件二対象年度まで引き続き一部にしろ税を免れてきたものであるところ、その動機として、弁護人は設立時に元本八五〇〇万円の債務を負担するの止むなきに至ったことを強調する。たしかに、創業時の被告人高橋の労苦は推察できないではないが、元来、右の債務は被告会社でなく被告人高橋個人その他の関係者が引き受けるべき筋合いのものであるに、これを被告会社の売上金から除外し、ひいては脱税して支払うが如きは公私混同のそしりを免れず、被告会社の監査役に弁護士が選任されていながら、こうした事態が継続されていたことは甚だ遺憾といわなければならない。しかも、その間、脱税資金を次々と事業拡張に投じ、昭和五〇年には右債務を完済しながら、なおも脱税を続けて本件犯行を反覆したものであって、犯行の動機において特に酌量すべき点はない。また、犯行の態様は、料飲税課税対象にあたる一人二〇〇〇円以上飲食した客の分につき売上を除外したもので、こうした方法が不可避的に料飲税の脱税を伴うものであつて、甚だ芳しくないものといえる。以上の諸点にかんがみると、その犯情は軽視を許されないといわざるを得ない。

しかし、被告人は、経理や会計の明朗化を意図したこともあって、昭和五四年五月から本件の脱税を自発的に止め、脱税額も判示の程度に止まつた点は斟酌すべきものであり、その後未納諸税の大半を納付し、残額の完納を約束していて、二度と脱税しない旨誓つている。被告人らに前科前歴のないこと、その他諸般の事情を勘案して、主文のとおり量刑する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 小瀬保郎)

別紙(一) 修正損益計算書

昭利観光株式会社

自 昭和52年8月1日

至 昭和53年7月31日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和52年8月1日

至 昭和53年7月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

昭利観光株式会社

自 昭和53年8月1日

至 昭和54年7月31日

〈省略〉

修正損益計算書

自 昭和53年8月1日

至 昭和54年7月31日

〈省略〉

別紙(三)

ほ脱税額計算書

昭利観光株式会社

〈省略〉

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